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【第6回】事故と税賠保険との関係:会計事務所が知っておきたい税理士賠償責任のポイント

東京共同会計事務所の窪澤と申します。
今回は、会計事務所が知っておきたい税理士賠償責任のポイントの第6回として、第4回及び第5回に引き続き「税賠保険」についてお話しさせていただきます。

著者

東京共同会計事務所
税理士/マネージャー
窪澤 朋子

上智大学外国語学部卒業
平成15年税理士登録。前職の鳥飼総合法律事務所で、14年にわたり、税務訴訟及び税賠訴訟の補佐人・不服申立の代理人を務める。主な担当事件に、ストック・オプション事件、ガーンジー島事件、グラクソ事件、外国籍孫事件等。
税賠案件では、税賠訴訟の他、税理士紛議調停・訴訟前の交渉等、多数の案件に関与。税賠保険事故調査書のレビュー経験あり。
著書に、「税理士の専門家責任とトラブル未然防止策」(清文社・分担執筆)等。

事前特約の対象となるケース

今回は、税賠保険のうち、事前税務相談業務担保特約(事前特約)の対象となるケースについてご紹介したいと思います(実際に発生した事故ではありません)。
事前特約は、申告書作成等の際に発生する損害ではなく、課税要件事実の発生を前提とする、事前の税務相談につき、アドバイスが誤っていたことにより発生した損害を対象とするもので、近年、税理士によるコンサルティング業務(事前の税務相談)の増加に伴うニーズの拡大により、税賠保険の特約として設けられることとなったものと思われます。

A税理士法人は、2015年2月、顧問先B社グループについて、組織再編のコンサルティングを行いました。B社グループのX事業拡大に伴うC社との事業統合について、C社のX事業をB社が吸収分割するスキームを組み、適格分割となり、課税関係が発生しないことを前提として、B社及びC社へ提案しました。B社及びC社はこの提案を採用し、2015年6月、吸収分割が実施されました。ところが、2015年7月、C社の税務顧問であるD税理士法人から、本件分割は非適格分割に該当し、吸収分割の際に、C社に時価課税として3億円の法人税課税がある旨の指摘を受けました。

C社は、D税理士法人が作成した、C社の時価課税を反映した法人税申告書を当局へ提出し、3億円を納付したうえで、A税理士法人の行ったコンサルティングが誤っており、B社との吸収分割の際に3億円の法人税課税がなされることを説明されていたならば、当該スキームは採用しなかったとして、A税理士法人に対し、2016年1月、損害賠償請求を行いました。

A税理士法人のB社グループ担当者Eさんは真っ青。B社及びC社へ提出した提案書については、所内手続きに従って、部長F税理士と担当パートナーG税理士の確認を得ていましたが、要件を1つ見落としており、そのことにはなぜかF税理士、G税理士も気付かなかったのでした。A税理士法人とC社との訴訟ではEさん、F税理士とB社の担当者Hさんの尋問が行われましたが、高裁まで3年間争った結果、最終的にA税理士法人は敗訴、3億円の支払義務が確定しました。

事前特約の支払限度額は最高でも1事故あたり5,000万円

A税理士法人は、事故の恐れが発覚してすぐ、税賠保険の担当者に連絡し、事情を伝え、必要な書類を集めて「事故報告書」を提出しました。保険会社には適宜訴訟の経過を伝えていましたが、最終的にA税理士法人が敗訴したことを受けて、A税理士法人が誤ったコンサルティングを行ったことで、C社の損害が発生したことは明らかであり、本件については、事前特約の対象業務になるものと判断され、5,000万円が保険金として下りることになりました※。

A税理士法人は1請求につき支払限度額3億円(保険期間中6億円)のタイプのものに加入していたため、F税理士やG税理士は、事前特約の対象業務ではなく、損害賠償額全額が保険金で手当てできることを期待していましたが、事前特約の実の対象となるケースであり、保険金が5,000万円しか出ないと知り、途方に暮れました。「税賠保険に最高限度額まで加入していたのに、こんなことがあるなんて・・・。」

A税理士法人は、幸いメインバンクから2億円を借り入れることができ、C社への支払いを済ませることができましたが、業績を伸ばしていたコンサルティング業務を縮小せざるを得なくなりました。

※税賠保険の保険金が支払われるか否かは、保険会社の判断となるため、本事例と同様の事例につき、確実に5,000万円が支払われるとは限りません。本記事では、支払われるものと仮定して記載しています。また保険金額は本記事記載時点の内容になります。最新の情報は、株式会社日税連保険サービスのHPでご確認下さい。

組織体制が整っていても万一の事故は起きうる

ここまでお読みいただいたみなさんは、本事例についてどのような感想を持ちましたか?
-A税理士法人、適格分割かどうかの判定を誤るなんて、レベルが低い。
-E、F、Gと、3人も確認していたのに、ミスを発見できなかったなんて、ひどすぎる。
-金額の大きなコンサルティングの際は、セカンドオピニオンを得るべき。

後から振り返ってみれば、至極当然な感想かもしれません。しかし、我が身には絶対に起きない、と確信できるでしょうか。A税理士法人のレビュー体制は、それなりに整っていました。Eさんが作成した提案書は、有資格者2名がチェックする決まりになっていました。A税理士法人のレベルを疑うのではなく、これだけ体制の整っている事務所でも、事故は起きうる、と思うのが、自然な感覚ではないかと思います。

税理士法人は、このような事故が起きないよう、担当者も有資格者も、日頃から気を付けるべきですし、それと並行して、事務所として、事故が起きにくい体制を構築することが求められます。一方で、万一の場合に備えた、税賠上乗せ保険の加入を検討することも、リスクヘッジの1つの手法です。

有事から学ぶ、再発防止策の大切さ

A税理士法人は、有資格者2名のレビューに加え、コンサルティングの種類ごとのチェックリストを作成し、提案書作成の際には必ず使用することとしました。組織再編も、事業承継税制も、毎年のように改正されることが多いので、チェックリストも、税制改正に合わせて、毎年アップデートしていく必要があります。チェックリストの運用は手間もかかりますが、論点の抜け落ちにはかなり有効ではないかと思われます。3億円の事故は勉強料には非常に高額でしたが、実は事故が起きてしまった後、どのように再発防止策を講じるかが、事務所にとってはとても大切なのです。

うちの事務所では、今まで一度も税賠が起きたことがない、という事務所の先生方も、もちろんいらっしゃると思います。組織体制がしっかり整っているからこその素晴らしい実績だと思いますが、ラッキーであるけれど、やはりうちでも事故は起きうる、と認識したうえで、リスク対策を検討されてみてはいかがでしょうか。

【今回のポイント】
・税賠保険の事前特約の支払限度額は最高でも1事故あたり5,000万円
・事故が起きてしまったときの再発防止策こそ非常に大切
・税賠保険でカバーできない部分のリスクヘッジも要検討

次回は、事務所の体制づくりについてお話ししていきたいと思います。

次回に続く

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2019年09月27日 - 21:07